活動ファンド | The Okura Tokyo Cultural Fund |
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申請時期 | 第1回 |
活動地域 | 北海道 |
活動ジャンル | 音楽、演劇 |
活動者名 | 子どものためのオペレッタワークショップ実行委員会 |
活動名 | 子どものためのオペレッタワークショップ「小人の靴屋」 |
活動名(ふりがな) | こどものためのおぺれったわーくしょっぷこびとのくつや |
実施時期 | 2017年 6月 5日 ~ 2018年 2月 28日 |
会場 |
実施場所:札幌市教育文化会館 所在地 :060-0001 北海道札幌市中央区大通北一条西13丁目 |
札幌市教育文化会館主催で12年間続いたものの、職員の異動による事業のミッションの継承に支障が起きたため2015年で中止となった「子どものためのオペレッタワークショップ」は、参加児童の保護者が中心になり、再開を求める署名活動に3,000筆以上を集め再び再開されることになった。ただしこれまでのように札幌市教育文化会館が主催ではなく、保護者有志による実行委員会が”主催者”となり、札幌市教育文化会館(札幌市芸術文化財団)は、会場の提供、舞台経費の負担をする”共催”となっての再開であった。
保護者による実行委員会が運営の柱となるため、不慣れな制作作業は大変なものがあったが、新たに赴任した館長や新たな担当職員と良好な関係で従来通りのワークショップが開催できたことは大きな喜びであった。
そもそも子どものためのワークショップとは「芸術に触れ/専門家と協働し/家庭や学校とは異なる場所と機会に/自らの創意工夫を生かし/新たな友人関係にささえられて/公に成果を発表する」というもの。札幌市では民間には例がなく、公益性の高い事業として行政が支えるのが自然な事業。今回の事業実施は、まずは保護者の努力の成果であるが、一度中止した事業を再び支援するという例をみない行政の決断の賜物である。
ワークショップは大きく2つの期間に分かれる。一つは9月から12月までの「ワークショップ」期間。毎週末の土曜と何回かの日曜を含め計21回のワークショップを行った。
この期間は、オペレッタに必要な発声や演技の基礎を教えつつ、歌や演技で表現するための子どもの創意工夫を汲み取り、それを実現する手助けをする。指導者は音楽の基礎や発声技術は厳しく教えるものの、音楽や芝居の表現においては子どもの自発的な、時には突飛な表現でもそれを受け入れ、創造力をサポートするのだ。
ワークショップ期間の1回目から10回目は、参加児童(小学3年生〜高校2年生、51人)同士の交流と、オペレッタ作品の理解に当てられた。色々なゲームや、登場人物の理解、発声練習、「譜読み」に重点が置かれた。またこの時期に、年長者は年少者を助けるとか、年齢や経験に関係なく、また今回参加した2人の障害を持つ子も分け隔てなく尊重しあうなどワークショップでのルールも徹底させる。
初めて出会う子たちのコミュニケーションを高めたり、初めて見聞きするオペレッタ作品に慣れる期間に指導者と子どもの両方をサポートするという大きな役割を果たしてくれたのは、過去にこのワークショップに参加したことがあるスタッフだった。子どもにとっては「先輩」であり、指導者にとっては、趣旨を理解している助手として貴重な存在だ。特に障害児が舞台に登場する時に、自ら子供に扮して付き添うなど、工夫してサポートに当たった。OGOBのボランティアの存在は、ワークショップが確かな実績を重ねてきたことと、事業の継続に意義があることの証左でもある。
11回目以降は、それまでに見極めた子どもの特性や力量に合わせ、キャスティングし、役ごとの個別の練習を増やした。キャスティングは「オーディション」などは行わず、指導者の判断によって行った。これは、ワークショップはあくまで演奏や役を演じてみることを通じてそれぞれの子が成長することが目的であるため、オーディションなど「競争」を持ち込むことを避け、どんな役割も大切であることを理解させるためである。
12月には、自分たちが舞台で使う小道具作りや衣装作りの時間も設けた。小道具という具体的な物を作るのは、まさにリアルな共同作業。子ども同士の交流や多様な結びつきが生まれる機会になった。出来上がった小道具は、上手く作れなかったとしてもそれを舞台で使用する。「見栄え」よりも、子どもが自分で作ったものであることが重要だと考えている。ただ衣装については、子どもの手に余るので、保護者や、専門家が最終的に形にした。
子どもの興味の対象は幅広い。歌が好きな子、踊りが好きな子。歌でも、綺麗な声を出すことにこだわる子、演技のアンサンブルにこだわる子。さまざまな「興味」に応えるため、指導する音楽家、演出家などは総勢16名。加えて、小道具作りには造形作家や、普通は舞台でしか関わらない舞台監督も直接の指導にあたってのワークショップだった。
ワークショップ期間に続く1月からの公演準備の期間は、成果を一般公開するための期間であり、子どもが獲得して来た表現力を、舞台スタッフの力で舞台に統合してゆく。
この期間はワークショプと言いつつも、一般公開できる水準の舞台にまとめ上げるため、ワークショップとは別の芸術的基準によって子どもを指導した。子どもがそれまでに獲得した表現が、一つのものに活かされてゆく感覚を味わい、それまで覗いたことがないだろう緊迫した舞台裏を目撃し、多くの人の視線が注がれる舞台に自らが舞台に立つという刺激的な経験となった。
そして、発表公演「小人の靴屋」は、1月13日(土)に、13時と16時の2回行った。(参加児童51名、発表会来場者654人)
発表公演後は「修了式」として指導者からの子どもへの最後の言葉や、子どもから親への感謝の言葉が交わされる。今回、子どもからの自主的なサプライズとして、指導にあたったOGへのプレゼントがあった。このワークショップに集った機会を大切にしたいという子どもの思いの表れだろう。
さて、オペレッタワークショップはスタッフや指導者、大人の演奏家の理解によってさらに豊かなものになっている。大人にとっても単に作品を上演するだけの仕事ではなく、子どもと向き合い、表現者として互いに協力し、またせめぎあいつつ舞台を作る。大人にとっても一つの体験を与える「ワークショップ」ともなった。
こうした中身の濃い「ワークショップ」事業の社会的評価を継続的に行うため、記録を公開する予定で現在作業を進めている。しかし多面的な成果をまとめるのには今しばらく時間がかかりそうである。同時に2018年度の実施に向け資金調達の作業も進めている。2017年度は多くの方の支援を得ることができた。しかし、社会的課題とそれに対応する文化事業は多様なものがある。そのなかでオペレッタワークショップの有効性をより多くの方にご理解頂く努力を続けてゆきたい。主催する実行委員会の大人たちにとっての”ワークショップ”はまだ終わらない。