活動ファンド | SOMPOアート・ファンド |
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申請時期 | 第2回 |
活動地域 | 山形県 |
活動ジャンル | 映画 |
活動者名 | 認定NPO法人 山形国際ドキュメンタリー映画祭 |
活動名 | 山形国際ドキュメンタリー映画祭2017 震災特集プログラム「ともにある Cinema with Us 2017」 |
活動名(ふりがな) | やまがたこくさいどきゅめんたりーえいがさいにせんじゅうななしんさいとくしゅうぷろぐらむともにあるしねまうぃずあすにせんじゅうなな |
実施時期 | 2017年 7月 1日 ~ 2017年 10月 19日 |
会場 |
実施場所:山形美術館、TONGARI BLDG. kuguru 所在地 :山形県山形市 |
[概況]
10月5日から12日まで一週間開催された山形国際ドキュメンタリー映画祭2017において、東日本大震災記録映画特集プログラム「ともにある Cinema with Us 2017」を開催し、8本の作品の上映と、3つのディスカッションイベントを行なった。2011年10月の映画祭より継続している本プログラムだが、震災から6年が経過した2017年の今回は、大きく二部に分かれた構成とした。一つは震災記録映画製作に関するプログラムで、近年製作された東日本大震災関連作品を6本上映・紹介し作家を招聘して質疑応答を行い、またそれらの作品に関連するテーマでのディスカッション二つ(「テレビ・ドキュメンタリーの現場から東日本大震災を考える」「東日本大震災はドキュメンタリー映画になにをもたらしたか」)を行なった。またもう一つは、そうした震災記録映像を保存し、今後いかに若い世代の教育の場で活用できるかについて、カンボジアの「ボパナ視聴覚リソースセンター」の取り組みを例に考えるプログラム「特別企画 アーカイブをめぐる対話」を組んだ。本企画では、ポル・ポト/クメール・ルージュ独裁時代の圧政・大量虐殺という負の遺産を語り伝える、若い作り手による2本のカンボジア作品の上映と、ボパナセンターの現ディレクター、チア・ソピアップ氏をお招きしてのディスカッションセッションを開催した。これら二つの企画はそれぞれ、映画を見、その後関係者の話を聞きながら各テーマについて参加者がじっくり2時間考えるというより立体的なプログラム構成となった。また映画製作の現状と未来の作家の育成、日本とアジア、といった多層的な視点が交じり合う、これまでの「ともにある」プログラムから一歩進んだ視野の大きな震災映画プログラムとなり、観客の満足度も高かった。
[達成できたこと]
新作の震災記録映画の上映は今回6本となり数としては少ないが、被災家族の思い、動物との暮らし、コミュニティの再生、震災に対する芸術家の思いなど、多様なテーマをもつ完成度の高い作品を上映し、国内の関心の高い観客や、世界各国から来ていた映画配給・興行関係者に紹介することができた。その結果、これらのうちの数本が、来年2018年春以降ドイツやベルギーなどでも上映されることが決まった。質疑応答とディスカッションプログラムでもそれぞれ活発な意見交換がなされ、招聘した6名の監督は映画祭後、揃って「映画祭に参加し観客と語り合ったことで、多くのフィードバックを得て今後の製作の刺激になった」という感想を寄せてくれた。作る側、見る側双方に多くの収穫をもたらすプログラムとすることができた。
また今回のプログラムでは特に、これまで検討しながら様々な理由で果たせなかった二つのテーマについてのディスカッションプログラムを組むことができた。一つは震災に関するテレビドキュメンタリーの製作現場とその今後の展望についてのディスカッションである。映画よりも身近な日常にあるテレビ映像の影響力の大きさはこれまでも多方面で指摘され、当映画祭でも早々に取り上げるべきテーマとなっていた。日々現場で様々な制約と闘いながら視聴者に向けて映像を発信しているテレビ業界の作り手を招き、そのお話を聞くことで、テレビと映画の根本的な違いやそれぞれの限界、地方局の現場の実際を知り、また世にあふれる映像を視聴者としてどう見ていくべきか、といった諸問題について、具体的な問題として参加者と共有することができた。
もう一つは、海外の映像アーカイブとの連携プログラムの実現である。国際映画祭のプログラムの一つとして開催し続けて来たこの「ともにある」だが、これまでは上映もディスカッションもほぼ国内の事象にのみ視点が留まっていた。今回は「映像アーカイブと教育」をキーワードに、大規模災厄の実態と人々の経験をそれを知らない若い世代に伝えるためにさまざまな工夫を行なっているカンボジアでの例に目を向けることで、急速にデジタル文化が普及している現在、スマートフォンアプリの導入のアイディアなど、より具体的な記録映像の保存・活用のための工夫や映画製作支援の方法を、会場の参加者とともに学ぶことができた。カンボジア作品の上映とボパナセンターのディレクター招聘は、このSOMPOアート・ファンドからのご支援がなければ実現不可能であった。心より感謝申し上げたい。
[現状の課題]
各プログラムで充実した質疑やディスカッションが行なわれた一方で、期間中の「ともにある」への集客数は前回の2015年映画祭に比べ減っている。映画祭への震災作品の応募数も減っており、震災から6年を経て、徐々に社会における3.11被災地への関心が薄れつつあることは明らかである。また、今回は映画祭の他のプログラムに押され、マスメディアへの露出が少なく、被災地東北の新聞社でさえも、このプログラムについてほとんど取り上げなかった。毎回継続している企画であることと、震災映画の新作上映だけではほぼニュースソースにならないことに加え、カンボジアの映像アーカイブに関しても、その直接的な関連が想像しにくい内容だったこともあるだろう。広報・周知の徹底については今後も大きな課題である。
今回はSOMPOアート・ファンドによる大きな助成を得て、海外に広く視野を広げたプログラムを組むことができたが、次回も同様に資金の調達が最重要課題となるだろう。
[今後の改善点]
今後もこのプログラムを継続していく予定だが、集客数の減少に対しては、(1) 作品選定のテーマを絞り、より明確に打ち出すことで、興味のある観客を確実に集め、参加してもらうこと、(2)映像分野だけでなく、異なる芸術分野の専門家も巻き込み、ディスカッションやワークショップなどに工夫をこらし、幅広い層にアピールすること、が必要であると感じている。また震災映画の上映を充実させる上で、新作の製作情報を漏れなく集めることが重要だが、国内における当映画祭および311ドキュメンタリーフィルムアーカイブの認知度をさらに高め、震災作品の作り手に確実に作品を応募してもらうように働きかけていきたい。マスメディア対策としては、次回は記者の方々に対して本プログラムのポイントがどこにあるのかを明確にしながら、丁寧に広報・宣伝を行ないたい。資金調達の面については引き続き各種助成金に支援をお願いしていく予定だが、このプログラムの意義を十二分にご理解いただけるよう、綿密なプログラミングと丁寧な説明を心がけていきたい。
[自己評価]
映画祭全体での総観客数は22,089名、そのうち本プログラムの観客参加数は合計531名(うち有料入場者254名)であった。本プログラムの8本の上映のうち10月7日(土)の『Life 生きてゆく』終了後にアンケートを回収。30名強の回答者のうち、最も多かったのが20代の学生で、山形県外からの参加が7割を超えた。プログラムが混んでいたこともあり、ほぼ会場付近の飲食店が利用され、喜ばれた。ほとんどの参加者が30,000円から100,000円の滞在費をかけて参加し、期間中、特に連休3日間の市内各ホテルはどこも満室、中心街の飲食店も賑わった。県外者はとりわけ、山形では映画とともに食を楽しみにしている方が多く、地元の参加者からは、いつもの行きつけのお店が満席で入れなかった、という声も聞こえた。事務局でもプログラムチラシなどに飲食店情報などを掲載して対応していたが、ホテルや飲食店の空き状況について、多くの方々から開催直前まで問い合わせを受けた。このように、当映画祭の開催は、期間中の地域商業施設の売り上げに大いに貢献したと考える。
[SOMPOアート・ファンドの助成を受けたことによるメリット]
今回本ファンドの助成をいただけたおかげで、従来は資金面で難しかった、海外作品の参考上映やディレクターの招聘、という国際映画祭らしいプログラム構成にすることができ、海外の知見をもとに、震災映像作品の保存と活用についてデジタル時代におけるより前向きな指針を得ることができた。とりわけ日本未公開のカンボジア作品2本に日本語字幕をつけることができたことは大きな収穫であり、映画祭参加者にボパナセンターによる若手作家育成プログラムの成果であるこれらの優れた作品を見てもらうことができた。現在、当映画祭が所有するこの2本の日本語版上映素材(ブルーレイ)について、先方の権利者であるボパナセンターに対し、国内の非営利上映会への貸出を可能にする契約を提案中である。契約が締結されれば、これらの2作品について日本国内でさらなる上映の機会が増え、将来より多くの人々の目に触れることになるだろう。カンボジアという地域に関心のある人々だけでなく、災害などの大きな苦難から心身ともに回復するために、人はどうそれらと向き合えばよいかといった普遍的な問いを、より深く考える契機になるはずである。
[協力機関・恊働団体]
山形美術館(会場利用)、ポパナ視聴覚リソースセンター(カンボジア:上映作品の手配・貸出、ディレクターの派遣)、山形市、市内各公民館、山形市市民活動支援センター、復興ボランティア支援センターやまがたなど地元公共施設・団体(イベントの宣伝・周知)
[集客人数]
○上映8作品(上映日:2017年10月7〜9日(3日間)、場所:山形美術館1階展示室):総計387名(延べ)
○ディスカッションイベント(場所:山形美術館3階展示室)
1. 2017年10月7日(土)「テレビ・ドキュメンタリーの現場から東日本大震災を考える」:総計59名(延べ)
2. 2017年10月8日(日)「映像アーカイブと学び―—カンボジア・ボパナ視聴覚センターの取り組みを例に」:総計38名(延べ)
3. 2017年10月9日(月・祝)「東日本大震災はドキュメンタリー映画に何をもたらしたのか」:総計47名(延べ)
[媒体への露出]
・「「震災とドキュメンタリー」討論」(10月19日(木)読売新聞全国版)
・「カンボジアの“壮絶な過去といま”を映像で伝える取り組みとは」(10月27日(金)、オンラインジャーナル「シネマトゥデイ」 https://www.cinematoday.jp/news/N0095691 )