本事業は今回で15年目の実施となり、地域住民にとっては例年のこととして、楽しみに待つ様子がうかがわれた。善福寺公園内での野外展に関しては、準備段階の設置の最中から、作品についての質問をしたりと関心の高さが見られ、実施中は案内リーフレットを手に、名前やタイトル等を確認しながら作品鑑賞をする人々が、会期中の平日休日問わず多く見られた。また身体表現作品も観客参加型のものを多く実施して、多くの観客の参加があり楽しんでいただけた。まちなか展においては、多様なジャンルの表現の中で、西荻窪駅前から約60店舗での児童の作品の展示(「おでかけトロール」)は広く周知され、また古いビリヤード場でのダンスパフォーマンスの三公演では、観客はほぼ満員、アンコールのコールもあるなど反応も良好だった。また、全体的に、作品に関するSNSでの投稿は、前年度までと比較して飛躍的に増大した。
【アーティストのリサーチ、作品発表の充実】
本AIRでは中長期にわたる滞在をサポートし、特に同一アーティストの複数年にわたる招へいを可能にすることで、丁寧なリサーチと充実した表現活動に繋げることができた。
また、4年間の継続したプログラム実施により、地域への理解が深まり、今後のまちづくりにむけた協働の可能性についての対話が始まっている。
《滞在プログラム1》では、昨年度の招へいアーティストであり、アーティスト・ラン・スペースの運営者の、アンクリット・アッチャリヤソフォンからの推薦によるアーティストを招聘。また、2013年度招聘のハイメ・パセナⅡを招聘することで、経年による状況の変化を記録できたとともに、地域の人々との絆を強めることができた。
また、新たに日本人アーティストであり、コミュニティアート、ワークショップでの優れた実績を持つ新井厚子は、陸前高田のコミュニティに働きかけるプログラムを実施。アーティストから働きかけるのではなく、住民から生活の知恵、技術を習うことにより、地域文化の豊かさを顕在化させることができた。
《滞在プログラム2》では、2013年から連続して招聘しているショーネッド・ヒューズが、本AIRでの丁寧なリサーチとクリエーションに基づき「Odori-Dawns-Dance」を立ち上げ、ダンスを通した国際的対話の場づくりを行っている。クリエーションパートナーとして、引き続き柿内沢鹿踊り保存会、木村玲奈(ダンサー)のほか、公募により選ばれた清水穂奈美(俳優)を加え、ダンスピースとして完成させるまでの充実したクリエーションを可能にした。
【海外のAIR実施団体との双方向交流】
引き続きタイからのアーティストを招聘することによって、今後、タイを拠点とするアーティストおよびAIR団体とのネットワークが強化され、具体的な双方向交流事業(展覧会の開催)へと繋がった
【日本人芸術家の海外招へいの萌芽】
《滞在プログラム2》における木村玲奈は、同作品におけるシドニーCritical Pathでのパフォーマーとして招へい。また、ノッティンガムにおいてはDance 4においては清水保穂奈美も合流・参加し、本AIRで制作された作品の成果を発表した。
また、今後の計画として、2017年はフィリピンでの報告展を計画しており、これまで参加した日本人アーティストの渡比を計画している。
【その他】
当AIRプログラムディレクターが、さいたまトリエンナーレ2016のプロジェクトディレクターを務めていたことを機会に、参加アーティストのアイガルス・ビクシェより、陸前高田の復興への願いと、当AIRヘの趣旨理解から、トリエンナーレ会期終了後、出品作である「さいたまビジネスマン」の寄託を受けることとなった。正式な設置、披露の日程は未定であるが、今後、当社の新規事業計画に沿いながら、今後、しかるべき設置場所を整備し、まちづくりの振興の一助に資する活公共財産の活用へつなげていく予定である。
今回の公演は音楽大学や大学院卒業後間もない新人を起用し、今後のオペラ界を担っていく若手育成を主軸に据えた公演でありながらお客様からも好評を頂くなど出演者個々に成長が見られました。
演目の選定では、お客様のニーズを探る必要があり、既に昨年の秋よりコンサート毎にアンケートを実施し、お客様が「観たい・聴きたい演目」の調査を実施しているのでそれを生かした演目選定に繋げる事。また音楽学生が減少する中、出演側の人材確保のアプローチ方法も変えていく必要性を感じています。
運営面では公演日が近付くにつれ、記者発表やSNSの利用などから出演者側のアプローチも強化しましたが、演目自体のネームバリューが薄く、入場券発売当初はお客様の反応が芳しくなく、一定の来場者数を確保するのに時間を要しました。
若手出演の公演ですので、入場料は抑えねばならず、収支は依然厳しいものがありますが、貴協議会を通じてご寄付を得られることは、公演を運営する上でとても励みになっています。
私たち「なつかしい未来創造株式会社」は復興まちづくり会社として、2011年10月の発足以来、「より良い社会資本づくり」を目的としたささまざまな活動を実施してきた。その中でも、2013年から実施している本AIR事業はアーティストの滞在創作を通じ、地域のまち・人と(地域内外の)人とをつなぎ、被災地といわれるまちに対し、アートによる新しい視点、価値を生み出す活動を行なってきた。今年度は5年間にわたるこれまでの活動とその意義を、目に見える形で示すことができた。
【実験的活動拠点の運営】
・陸前高田市、陸前高田市教育委員会との連携により、陸前高田市立・旧横田小学校校舎をAIRアーティストの滞在制作スタジオとして活用。
・拠点形成は将来的なプログラム運営、経営の要となる可能性があり、地域の復興状況と照らし合わせながら、今後はさらに、地域行政との協力体制をもち、今後の展開を試みていきたいと考えている。
【日常と創造との関係】
・拠点があることで、AIRとは何かを、具体的に、目に見える形で示すことができた。
・アーティストが仕事をしている現場が地域の旧校舎にあることで、ワークショプやオープンスタジオ開催日以外にも、地域住民との日常的な交流を行うことによって、日々の暮らしの中にある創造的活動がもたらす豊かさを、共有することができた。
【多様な成果発表の場】
・数年間の長期にわたるショーネッド・ヒューズのリサーチと創作の成果は、クリエーションパートナーである柿内沢鹿踊り保存会およびコンテンポラリーダンサーとの共同によって豊かなに育ち、ダンス作品としての一定の成果を作り出すことができた。
・その成果を、国際舞台芸術ミーティング in 横浜2018(TPAM2018)のフリンジ企画として2日間の公演と、トークイベントを行い、多くの観客からの評価を得ることができた。
・ショーネッド・ヒューズのリサーチと創作の過程が、現代舞踊評論家の武藤大佑氏の論文『舞踊の生態系に分け入る── ショーネッド・ヒューズと柿内沢鹿踊』として発表され、アカデミックな舞踊評論の中で、活動の重要さを示していただく機会を得た。
【国際芸術祭へのAIRアーティストの出展】
・今期滞在したフィリピンのリサーチャーである、コン・カブレラが、フィリピンで初めて開催される国際芸術祭「マニラビエンナーレ」のキュレーションチームの一員を務めており、カブレラ氏の推薦により、本AIR滞在アーティストのアイガルス・ビクシェが出展アーティストとして招待を受けた。
・参加アーティストの活動の場が広がるとともに、陸前高田AIRの活動への周知にもつながった。
活動をしてみて
全方向客席のアリーナスタイルの客席展開は非常に実験的な舞台設定ではあったが公演後回収したアンケートには「出演者やオーケストラと聴衆の位置、距離感が近いため臨場感あふれる舞台でした」「舞台裏の席で見るのは初めてでしたが楽しめました」「客席通路を使った演出で登場人物をより身近に感じられた」などの感想が多く、通常のプロセニアム形式では観ることが出来ない方向からの観劇など含め、アリーナ形式ならではの動きや表情などの臨場感を味わって頂けた。また上演機会があまりにも少ない演目のため、当初は来場者数が懸念されたが、逆に稀少性もあり、初日は満席に近い大変多くのお客様にご来場頂き、「思いがけず素敵なオペラとの出会いに感動いたしました」「生で観るのに25年待ちました。客席まで使った演出が非常に良く、いくら良い演奏のCDやDVDでもかないません」「再演を希望します」といった感想を頂いたことからも、本活動により上演稀少な作品への再評価と、全方向客席のアリーナ形式での上演というオペラの新しい楽しみ方の提供という点において、当初の企画意図を達成することが出来た。公演前の10月28日に府庁本館活用事業を利用し大阪府庁舎・正庁の間にて無料の宣伝コンサートを実施。90席程度設置のところ76名来場があり、ご来場頂いたお客様へのアンケート(有効回答数30)では、本活動の公演への「興味の有無」、「観劇への動機」の問いに対し、「大変興味を持った・興味がある」への回答が86%、「観に行く・観にいってみたい」への回答が63%も得られた。また本活動の公演時のアンケートにも無料宣伝コンサートで興味を持った旨の回答も僅かながらあり、実際にプレ公演で興味を引き、公演へ足を運んで頂く事に繋がった。また、中ホールでの公演ということで公演経費を抑えられたため、昨年度の公演より入場料の低廉な価格と学生席を設定したことにより、お客様への訴求効果を高め、公演直前のゲネプロではメイシアターの利用者を中心としたリハーサル公開と演出家によるレクチャーを実施し、吹田の市民へもオペラ公演への理解とアピール度を高められた。
改善すべき点としては、公演日が近付くにつれ、記者発表やSNSの利用などから出演者側のアプローチも強化されたが、演目自体のネームバリューが薄く、入場券発売当初はお客様の反応が芳しくなく、一定の来場者数を確保するのに時間を要した点。今後は、新聞広告より無料のコンサートの実施などで出演者の露出を高めることにより、お客様の反応をダイレクトに感じられるので、費用対効果を図りながら実施していきたい。そのほか、既に昨秋よりコンサート毎にアンケートを実施し、お客様が「観たい・聴きたい演目」の調査を行うなど、お客様の生の声からニーズを探り、今後の演目の選定に繋げていきたい。