2017年は日本から米国とアジア地域への渡航支援も例年通りの支援をさせていただきましたが、このほか、日本への渡航を希求するアーティストや研究者による優れた調査プロジェクトを多く支援することができました。
相互の理解を深めるための国際文化交流において、このような双方向(多方向)の交流がバランス良く行われることはとてもよい傾向にあると感じました。
また、ACCは、グラントにおける活動を終了した後も、ACCネットワークの一員として自身を認識してもらい、以降の自身の活動においても、ACCのグランティ(助成金受給者)ネットワーク間の交流の可能性を奨励し、ときに、お金以外で可能な支援を行っています。
2017年の日本のグランティにおいても、グラント終了後もACCとのつながりをもち、支援を提供できる機会があった例がいくつかありました。
ハワイ州における美術品修復研究を支援した橋本麻里氏においては、続いて文化庁からの助成金を受給し、ニューヨークにて1年の研修を行いました。その際、ACCが無償で米国ビザの発給を支援しています。滞在中も、ACCグランティとして、ACCを通じ多くのアーティストや研究者との出会いの機会を提供することができました。
ニューヨークおよび米国各地において、日本家屋の調査を行った蒲田友介氏については、米国での活動中に知り合った建築家アントニン・レーモンドの遺族を通じて、フィリピンにおける建築調査の縁がつながり、ACCのフィリピンオフィスのスタッフがフィリピンでの活動のアドバイスや来訪のケアを受け持ちました。
このように、短期的に継続したつながりを持つこともあれば、一方、5年10年20年と長期に渡って結実し、また、発展するACCグランティのネットワークもあります。
例えば、今回、タイと台湾で調査活動を行った小谷野哲郎氏については、2005年に氏に授与したACCフェローシップの期間中に米国西海岸で知り合った影絵の劇団を主催するACCグランティと、チェンマイの影絵の劇団を主催するACCグランティと協働調査プロジェクトとして、今回2017年、ACCとしては二度目のフェローシップを授与し、彼がACCを通じて育んだ米国とタイの同業者との交流を支援しています。
ACCはグランティとの関係を継続することによって、その後どのような活動を行っていくのか、そして、ACCのネットワークがどのような援助が可能となっていくのかを見届け、一時的な資金提供だけでない、人と人が関わり合い、時間や体験を共有することによってのみ可能となる文化の友好ネットワークを構築してくことが、広く社会における異文化の理解や芸術への理解と発展につながっていくことにつながるものと考えて、今後も末永く活動を続けてまいります。
2018年度は日本から5名、また、米国から2名のフェローシップ助成、また、米国から日本への渡航を実施した団体1件を支援いたしました。
ACCは、「人生を変えうる異文化体験の提供」を支援目的の一つの柱として掲げています。渡航先の文化コミュニティに入り、時間をかけて、人々と交流を重ねることによって「人生を変えうる異文化体験」が可能となります。また、その経験が、一人の人間としての成長もさることながら、滞在先のコミュニティにとっても大きな影響を与えます。つまり、支援におけるインパクトと質量が圧倒的に高まるのです。
2018年度の事業にあっては、日本からの渡航者5名はすべてACCのフェローシップ最長期間である6ヶ月、また、米国から日本への滞在者2名も3ヶ月と、長期にわたる調査を支援することができました。例年に比べ、助成人数は多少しぼられましたが、執行予算規模としては例年通り、そしてACCが提供できうる支援とその影響力を最大限に活用することができました。
また、今年のグラント受給者として、演劇研究者であるエグリントンみか氏、インディペンデントキュレーターである大坂紘一郎氏と、研究、伝達、批評の専門家を支援することができたのも、大きな成果でした。 エグリントン氏はシェークスピア演劇の専門家であり、これまでイギリスをはじめとするヨーロッパを軸にした研究をしておられました。今回、ACCのプログラムを経て、アメリカと台湾という、まったく違う土壌を持った国と地域を、シェークスピア演劇研究者としての彼女の目線で調査することで、新たな演劇のあり方を発見し、彼女自身がアジア出身の女性の演劇研究者として、現代の社会における演劇研究につながる種を得てくださいました。それぞれの地の演劇における先端的な大学研究機関に所属できたことも、渡航先のコミュニティや人々との交流を活発化させ、多角的な国際交流の実践になりました。
また、大坂氏も、これまでヨーロッパと東京での活動を主にしておりましたが、移民や他国からの専門家が多く生活するニューヨークでの経験を経て、アジアとの繋がりの道を見出しています。氏は、帰国後まもなくして、アジア諸国へのリサーチを開始。各地でACCのグランティとの交流を重ねながら、調査を継続してくださっています。
グローバルな社会への転換が進み、また、社会とともに日々刻々変化していく芸術が生み出されている今日、この芸術のありかたを人々に伝え、記録し、歴史の中に紡いでいく役割を担うプロフェッショナルの存在が社会から希求されています。特に日本において、グローバルな視点と言語を持って発信・吸収できる人材は大変貴重であり、彼らがグローバルに活躍できるプラットフォームや環境の整備が求められております。その意味では、2018年のこれら二人の専門家を支援できたことは大変に幸運であったと思いますし、また、これからも、その時代に社会がもとめる人材や才能への投資が必要であるとの思いをもって、いかにその影響を最大化できるかを探りながら支援を続けてまいります。
そのほか、米国から二人の若い世代のアーティストを招聘し、舞踏、サウンドアート/環境音楽といった、日本において独自の発展を遂げ、世界でもその評価が高い芸術分野を調査する機会を支援しました。世代をつなぎ、新しい表現へと果敢に挑戦するアーティストたちは、時代を革新していくエネルギーをもち、既存の枠を超えた交流を作り出す橋渡しとして大きな役割を果たしてくださっています。
図らずも、2020年は新型コロナウィルスの影響を受け、社会が大きな変革の時期にあることを一人一人が感じざるを得ない状況です。また、社会における不安は、人々を分断し、差別や排他主義を生む要因となってしまうことも、私たちは過去の経験から理解しています。このような時代にこそ、芸術文化や異文化交流は、わからないこと、ちがうこと、みえないものに対し、どのように私たち人類が向き合えば良いのかを指し示す大きな役割をあたえられているのでしょう。
芸術文化を担うプロフェッショナル一人一人の行動は、ともすれば小さな活動に思えるかもしれませんが、しかしそれらは、社会全体に真正面から対峙する一人の人間の覚悟と確信をもってなされているものであり、次の時代を切り開いていく力や思い、意味を持っていることを、今一 度、認識する必要があるように思います。
この変革の時代にこそ、芸術文化発展と異文化交流への支援が求められているとの思いを胸に、ACCは今後も末永く活動を続けてまいります。
設立当時より、うを座を指導してくださっている俳優で演出家でもある壌晴彦氏(演劇倶楽部【座】主宰)に、昨年春、忙しいスケジュールの合間をぬって書き下ろして頂いた「虎斑猫の譜」。これは地元の民話を題材に、自然豊かな海と、そこに生きる人々との絶望と希望を猫の目線から語らう物語。そこに、何かもう1話を加えて、2話構成で、一つの公演にしたいと、再度壌氏に執筆を依頼。仕上げて頂いたのが「スノーグース」。原作はイギリスの作家ポール・ギャリコの「白鴈物語」。第二次世帯大戦のさなか、イギリスの片田舎で傷ついた白鴈を助けた少女と、肉体にハンディキャップを背負った心優しい青年の淡い恋と哀しい別れ。この2話を、塾生5名と、一般公募で参加する大人7名の計12名で演じることに決定。
壌氏はどうしても日程の調整がつかず、指導のために気仙沼にお出でになることができなかったが、代わりにお弟子さんでもある森氏を指名。森氏には、一昨年から度々稽古をつけて頂いており、塾生やスタッフにとっては絶大な信頼をおける指導者である。しかし、その森氏も、ご自身の出演舞台を抱えているため、直接指導できる日時が限られていた。9月に3週連続で稽古に来ていただいたかと思えば、10月は1日も足を運べず、公演の4日前に入られるという厳しいスケジュール。9月に詰め込み式で稽古していただいたことを、いかに忘れずに11月まで繋げていくかが課題であった。大きく貢献したのが、うを座の卒業生でもあるOB・OGメンバー。芝居全般、歌、ダンスと、それぞれの得意分野を受け持ち、お互いが毎週末の稽古に入れる日時を調整し合ってローテーションを組んだ。こまめにスタッフミーティングを持ち、稽古の進捗状況を伝え合い、モチベーションを下げずに取り組めるよう努力していた。過去に塾生として舞台に立っていた子供たちが、一旦は進学や就職で地元を離れながらも、今度はスタッフや指導者としてと戻ってきてくれた。「大人と子供とが文化を通じて共に成長し合う」という、うを座の立ち上げ当時の想いがを若手スタッフが実現させてくれたわけである。
今回の公演において、反省すべき点は「時間が足りなかった」の一言に尽きる。特に、舞台を作るうえで非常に重要になる音響・照明の打ち合わせが圧倒的に足りなかった。通常、公演を行う際は遅くとも1~2日前には会場に入り、セッティング作業を行うが、今回は前日から会場(ホテル)を借り切ることができず、公演当日の朝、会場に入ってからのセッティング。10時半開場予定だったが、照明の色作りや場面転換のタイミング、マイクの調整などが間に合わず、会場の外でお客様を待たせてしまった。本番同様の稽古(ゲネ)が全くできないまま、不安を抱えて本番に臨むという状況を作ってしまったことが悔やまれる。当然「完璧」という結果にはならず「もっとああしていたら」「あの時にこうしていたら」という後悔が多く残る。また、お客様からの感想として「虎斑猫の譜は難しくて内容がわからなかった」との声が寄せられている。脚本で昔の口語調や難解な単語が使われているのに対し、適切な声量と発声で客席まで台詞を届けることができたかったことが原因と捉えており、今回の公演に関する演技に限らず、役者の地力を含めた指導の不足を実感した。
公演後のスタッフミーティングでは、各セッションから数々の反省点が報告された。森氏からは「自分が深く稽古に入れなかったことが申し訳ない。しかし、今後も舞台を続けていくのであれば、それなりの環境を整えてから臨むべき」とプロの立場からのアドバイス。本番当日に音響・照明を仕上げるということが如何に無謀であったか、改めて自分たちの見込みの甘さを猛省した。今回は、公演日のみに重きを置いてしまい、その前日、あるいは前々日から会場を押さえることができなかったことが最大の反省すべき点であると思う。勿論、出演した塾生の芝居における課題点や、慢性的なスタッフ不足など、他にも改善していくべき点はあるが、厳しいスケジュールの中、少ないスタッフで成し遂げられたことは反省と同時に自信も湧いてきた。一つの舞台を終えて「よかった、よかった」とやり終えたことでの自己満足で終わるのではなく、失敗から目を逸らすことなく、次の舞台のためにどう行動すべきかと考える塾生とスタッフの意識の高さが最大の収穫かもしれない。
開催にあたっては財政状況が厳しく、新潟市からの負担金以外の財源確保に苦慮していたところ、企業メセナ協議会からのご支援を受けることで、協賛いただく企業に対するメリットを生み出すことができ、多くの企業・団体等からご協力いただくことが出来ました。また、企業メセナ文化の周知にも繋がり、新潟市の文化創造都市の取り組みの推進にも繋がりました。
活動をしてみて
2016年度ACC日米芸術交流プログラムにおいて、9名の個人フェローシップ及び7団体への支援、合計で16個人・団体を支援することができました。特に個人フェローシップ受給者に対しては、日本、アメリカ、タイへの渡航滞在調査において各個人のニーズに即した渡航滞在計画、ビザの発給やロジスティックスに関する支援、現地における調査目的に即した方々や団体への紹介、そして、ACCのこれまでの助成受給者の方々への紹介など、ACCのプログラムの特徴でもある、お金だけではない、人と人をつなぎ友好を育む支援を行うことができました。
もちろん、それぞれ芸術の専門家として異国で活動することで、芸術家や専門家としての跳躍台となるような機会を提供できたことも、大きな成果の一つであり、これまでのACCが継続して目指してきた活動の一つです。
グラント受給者のフィードバックは各人それぞれ違いがありますが、例えば日本からアメリカへ渡航した横山義志さんは、NYでの滞在を振り返って以下のようなレポートをいただいています:
“Thank you so much for generous supports you provided me to conduct my research in US! Because of your continuous assistance, I could meet really many exciting people, who should be my precious partners for next years. For me, this stay was extremely useful to prepare my coming ten years — it gave me a real opportunity to rethink thoroughly what I have done until now, both as theatre worker and scholar.
In my application, I proposed this topic: "Contemporaneity of Asian Performing Arts and Performance Studies". But finally, my experience in US led me to think about a larger question: Is it possible to represent the World by means of a Theatre Festival?”(原文から一部抜粋)
また、韓国出身でアメリカで活躍するダンサー Yanghee Leeヤンヒー・リーさんは、日本での滞在の成果を以下のように述べています:
“The ACC Fellowship allowed me the time and space necessary to re-engaged to my self and my work; explore new directions; and make new, lasting connections. It’s one of the best experiences I have done! My time in Japan was a very special time of exploration, learning, stimulation, and more fun. Three months of experience in Japan was like a gift for me. I was very graceful to get special attention and practical help from many people around me.
I was very impressed with how the ACC Tokyo office managed my project in Japan. Responses to questions were always prompt and friendly. This was so valuable to me, especially traveling from a long distance. I was able to really look forward to and enjoy the whole experience because of hospitality and administrative efforts were exceptional! I feel that the ACC’s generosity, depth, and kindness set the tone for a culture that carried over to the project period.”(原文から一部抜粋)
このように、ACCは、これからもそれぞれの芸術家や芸術の専門家の方々のキャリアや人生に大きな転換点を与えうる国際交流の機会を提供し続けることを第一の目標とし、かつ、これらの方々がそれぞれのコミュニティや国際社会において、長く貢献し続けることを期待し、応援していきます。
メセナ協議会様の大きなご助力により、日本でも支援の和を広げることができるようになりました。今後も日本の芸術文化を支援し続けていくとともに、それが、ひいては世界全体の芸術文化を通じた友好を育む大きな力になっていくことを心から願っています。
ありがとうございました。
報告画像①:近藤愛助:日系アメリカ人の皆様へのインタビュー
報告画像②:Johann Dietrich:京都の鴨川でのサウンドワークショップ
報告画像③:百瀬文:NYのタイムズビルにて
報告画像④:Zac Zinger:一弦琴奏者の峯岸一水氏とのプライベートセッション
報告画像⑤:恵比寿映像祭でのLei Leiギャラリートーク風景